MelonSoda☆Project

「 フェアリーテイルの夢 」

人の目に触れぬよう結界で守られた妖精の里。
その里には結界にエネルギーを宿す力を持つ妖精たちの御神木があった。

ある日、大切な御神木に異変が起き始めていることに気付いたティーネは掟を破り、結界の外へと旅立つ。

大地の異変と魔物の襲撃には何らかの関連性があることを知るティーネ達。
彼女は大切な仲間たちの里を守れるのか……

幸運を運ぶという言い伝えを持つ小竜のステラと
妖精ティーネの冒険ファンタジーが今、始まる―――!


第一話 「小さな種族」


白い花びらがどこからか飛んでくる。
風の隙間から見えるのは、紅や橙、翠に藍、それから藤色の――透き通る羽。
無数の羽から零れ落ちる光の粒が とてもとても綺麗だったことを覚えている。

初めて見たこの景色が『鱗の儀』と呼ばれていることを
このときの私はまだ知らなかった。
それは、私たち小さな種族――”妖精”があるべき姿になる宴。

「おーい。ティーネ、スバル!」
「いいところに来た。畑に水をやるのを手伝ってくれ」

「や――」

「いいよ♪」

「おい、なに勝手に――」

「ほら、スバルも準備して」

彼の返事を聞く前に、私は体内に意識を集中させた。
身体を巡る血液に運ばれて、”力”が湧いてくる。
周囲にいくつもの気泡が浮かんだ。
スバルに目配せすると、彼はため息をついた。

「しょうがねえな。わかったよ」

「ふふ。ありがとう」

気泡はみるみるうちに膨らみ、大きな水滴となる。

「いくよ!」

掛け声と同時に、私は”流れ”を重力に逆らわせた。
さらに、スバルの右手からは刃のような風が発生する。
それらは合わさり、水を含んだ風が乾いた土の上に雨を降らせた。
畑だけが潤うと、天気が晴れていく。

「おおー、さすがだな! 助かったよ!」
「俺は土属性だから、水撒きはどうも苦手でよ」

小さな里で暮らす小さな私たち――妖精族は自然の加護を受けている。
物心ついたときから、私は水に愛され、スバルは風に愛されていた。
力は生活の一部となり、こうして助け合っている――。

「あれは助け合いじゃねえ」
「いいように使われてるだけだ」

「スバルは細かいこと気にしすぎだって」
「おじさんも喜んでたじゃん」

「あのなー……」

「あ! スバル、見てみて。御神木さまだよ」

里の中心にそびえ立つ大樹を指差す。
傍では、子供たちが樹を囲み、遊んでいた。

「私たちも、もうすぐ”鱗の儀”だね!」
「早く飛びたいな~」

しなだれた枝から伸びる若葉を見つめた。
たくさんの蕾がぷっくりと膨らんでいる。

「儀式を超えないと、羽が生えないなんて面倒くさい種族だよな」

スバルはそう言って、自分の背中に視線を向けた。
そこには、透明な羽の”蕾”がついていた。
御神木の蕾が芽吹くとき、私たちの羽も咲く。

「私は水属性だから、羽の色は水色かなぁ」
「スバルは風だから……透明?」

「それは色じゃねえ!」
「あと、水だから水色ってそのまんまじゃねえか」

「だってー、風に色ってないし……」

「萌黄色だ」

「もえぎ色……?」

「親父もそうだったからって理由だけどな」
「あぁ……あれだな。近い色は」
スバルが示したのは、鮮やかな黄緑色をした草の芽だった。
もうすぐ暖かな季節が来ることを告げるように、木陰にひっそりと佇んでいる。

「わぁ! 綺麗だね!」
「私、この色好きー!」

「お、おう――」

「あ、照れた」

「照れてねえ!」

優しい里のみんな。おいしい食べ物。他愛のない会話。
私はここが大好きだった。
何も変わらずにずっとこのまま過ごせると――そう、思っていた。

「た、大変だ!!!!」

血相を変えて駆け寄ってきたのは、先ほど畑にいたおじさんだった。
ただごとではないと、一目でわかった。

「ど、どうしたの?」

「お前ら、早くここから――」

「おい……あれを――」

驚愕の表情でスバルが見つめた先には――太陽をも霞める炎。
赤く、黒く、燃え上がる火が森の木々を焼いている。

「火の手が早い。このままじゃ、ここまですぐだ!」
「羽のないやつを連れて、里の外れまで走れ!!」

私たちが話している間にも、里中は悲鳴と狼狽に支配されていく。
目に見えないその空気は伝染し、私たちにも忍び寄る。
それを察したのか、おじさんは私とスバルの肩に手を置き、豪快に笑った。

「大丈夫! 大人たちに任せろ」

私たちが確かに頷いたことを確認すると
おじさんは数人の大人と共に森の方へと走り出した。

「ティーネ、行くぞ」

私たちは他の子供たちを引き連れ、森から最も離れた小屋まで避難した。
部屋からは時折、すすり泣く声が聞こえる。

「ねえ、スバル。私たちも何か手伝えないかな?」

「飛べない俺たちが行っても足手まといだ」

「でも……!」

それ以上、私は続きを口に出すことはできなかった。
彼の悔しさが、固く握りしめられた拳から伝わってくる。
時間だけが空しく過ぎていった。
数十分、もしかしたらまだ数分しか経っていないのかもしれない。
――私は”あること”に気が付いた。

「ひとり、足りない……?」

「え?」

「スバル! ひとり、子供が足りない!」

「――レイか!…… 御神木だ!」
「さっき、俺たちがいたあのとき、樹の周りで遊んでた」

「まさか逃げ遅れて……!?」

この部屋にいる者の中で、最年長は私たちだった。
迷っている猶予はない。
私たちは顔を見合わせた。
他のみんなを刺激しないように、静かに外へ出る。
スバルの風を受け、私たちは全速力で里の中心へ向かった。

もし、ひとりぼっちで里に取り残されていたら――?
もし、熱い炎の海で苦しんでいたら――?
もし、もしも、手遅れだったとしたら――?

大人たちは森林の消火に追われているのか、里はもぬけの殻だった。
焦げ臭さが鼻をつく。
里中が煤に覆われていた。
私たちは大声で名前を呼びながら、御神木を目指す。
もうすぐ、もうすぐで――。

「――!」

大樹はいつもの場所で私たちを待っていた。
淡く照らされた光が、樹洞の中でレイを護っている。

「眠ってるだけ、みたいだな」

「良かった……本当に、良かった……」

急いで戻ろうと、スバルがレイを抱き上げた瞬間だった。
力が弱まるように、明かりが消えた御神木の幹が黒く煤けていく。

「そんな……!」

私はすぐに力を発動させた。
蒸気がダメなら次は水滴を、水滴がダメなら今度は滝を――。
しかし、樹木の温度は上昇し続ける。

「代われ」

スバルは私にレイを預けると、目を閉じた。
湿風が幹に沿って駆け抜ける。

「――くそっ! こんな風じゃダメだ」

そして――
吹き出る煙は勢いを強め、やがて小さな火種を実らせた。
炎の芽は、御神木に赤い大輪の華を咲かせる。

「まだ……!」

私は燃えていない新芽に手を伸ばす。
頭上で、パチパチと何かが崩れる音がした。

「ティーネ!!!」

スバルの声と、空気を切り裂く風の音、何かに突き飛ばされた感触
そして、視界の端で閃光が弾けたのは同時だった。
すぐには何が起きたのか理解することができなかった。
でも、起きてしまったことの重大さを理解するのは一瞬だった。

「うぅ……あぁ……!!」
「くっ……あぁ熱い……うっ……」

炎を纏った枝がスバルに覆いかぶさっている。
私は彼の元に駆け寄ると、素早くそれを退けた。
羽が――スバルの羽の芽が黒く変色していた。
透き通るような輝きは見る影もなく、彼の背中には何かの残骸がこびりついていた。

「スバル! スバル!!」
「すぐに手当てを……!」

私の腕の中にいたレイが目を覚まし、不安そうに顔を上げる。
スバルは無理やり笑みを作った。
額には脂汗が浮いている。

「おう、やっと起きたか」
「寝坊助も……たいがいに、し――」

ぐったりと倒れ込んだ身体を支える。

「スバル!? スバル、目を開けて……!」

……手遅れだと
……もう彼の羽は元には戻らないのだと
……彼は一生空を舞うことはできないのだと
私は悟ってしまった。

嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。
風に愛された彼が、空に見放されるなんてことが、あってはならない。
水に愛された私なら、空を知らなくていい。
そうだ。私が、私が代わりに――。

「――!?」

いつの間にか握りしめていた掌の中から、眩しい光が漏れている。
手を開くと、そこには瑞々しい新芽がひとつ転がっていた。
私はもう一度願う。

――助けたい。
――私の大切な人を。
――助けたい。
――私の大切な故郷を。

光は御神木へと伸び、根を幹を枝を葉を――照らした。
理屈はわからなかった。
でも、私のやるべきことも、力の出し方も、頭の中に流れ込んでくる。
私は持っているすべての力を1点に――背中の羽に集めた。

紅、橙、翠、藍、藤――。
大きく広がった羽に色が満ちる。
それは、いつか見た景色と同じ。
いくつもの色をつけた光がスバルを包み込む。
ゆりかごのような懐かしい暖かさが、辺り一帯に満ちた。

「ん……」

「スバルにいちゃん!」

レイがきゃあきゃあと笑いかける。
私も彼に向かって微笑んだ。
抱きしめるように、彼の背中に手を重ねる。
光の糸は私の手を伝って、スバルの羽を形成した。

『萌黄色だ』

彼の言う通りだった。
彼の背中に芽吹いた羽ばたきは、若葉を思わせる萌黄色。
そして、さらにもうひとつの色
――太陽のような、あるいは月にも見える黄金色の輝きが眩しかった。

「これは……」

スバルは大きく羽を広げ、感触を確かめた。

「痛くない……?」

「あぁ。……ティーネ、いけるか?」

「うん!」

私たちは里の守り樹に向き直る。
今度は祈るのではない。

――助ける。
――私の大切な故郷を。
――助ける。
――私たちの力で。

息を合わせた途端、大きな力の逆流を感じた。
スバルの手を握る。
彼も、私の手を強く握り返した。

水と風――。
激流と暴風――。
そう表現できるほどの天候が、離れた森にまで及ぶ。
嵐の激しさを思わせるそれは、民家や木々を避け、黒煙だけを飲み込んだ。
――霧が晴れた先、禍々しい炎は跡形もなく消えていた。

「スバル……終わった……ね……」

「ティーネ――……っ!?」

そこで、私は意識を失った。
……夢を見た。
私は水の加護を失い、暗い海の中で溺れている。
誰かが私に手を伸ばした。
顔は見えないのに、不思議と心地良い。
私は迷わずその手を取った。

「――――ん……」

「よう、気が付いたか」
「……ギリギリ間に合ったな」

「スバル……。間に合ったって……?」

「おいおい今日が何の日か忘れたのかよ」
「俺たちの――『鱗の儀』だぜ」

「――え!?」

私は窓の外に目を向けた――枝葉を広げた御神木が見える。
いつもと変わらぬ姿で、里の中心に鎮座していた。
ただし、唯一変わったところがあった。

「花が……」

「咲いたな」
「お前が、護ったんだ」
「行くぞ。みんな待ってる」

ほら、とスバルは手を差し出した。
夢の記憶と重なる。
私と彼の羽が広がった。
呼応するように、御神木に咲く花――白い花弁がいくつも舞った。

忘れるはずもない。
今度は私たちがその景色を形作る番なのだから。
無数の羽から零れ落ちる鱗粉の中に、私たちの色が混ざり合う。
『鱗の儀』という名前は、この鱗粉からつけられたという――。

「お前の言う通りだったな」

「――! ほんと、だね」

私の背中には――
空を切り取ったような
どこまでも続く彼方を思わせるほど透明な
水色に染まった羽が宿っていた。

初めて飛んだ大空は、涙が出るくらい綺麗だった。
綺麗という言葉しか思い浮かばないことが、なんだかとても悔しいと思った。

「あのとき、庇ってくれてありがとう。スバル」

「いや――……俺こそ」

「ん?」

「――助けてくれて、ありがとな」


こちらを見ずにお礼を言ったスバルの横顔が、虹色の鱗粉に照らされていた。




―― to be continued 



    



沢山の方々と素敵な交流が出来ますように☆
そして、応援してくださる全ての方々が、美しく、可愛く、素敵に過ごせますように☆

メロンソーダ☆Project    supported by RiseArtClub
公式テーマソング RISE111「アニバーサリー( Anniversary )」

目の前に大きな壁が立ちふさがっても☆

激動の世の中でも・・・☆☆☆

美しく、可愛く、素敵に♪☆(´∇`)☆♪

力を合わせて進んでまいりましょうね☆
どうぞよろしくお願いいたします☆( ◜ω◝ )

皆が知恵を出し合い、世界中で吹き荒れる混乱を乗り越えてゆけますように☆